CCP による OTC デリバティブ取引の清算義務化とそのビジネス・モデル ( 全 2 回 ) No.1
第1回 CCP による OTC デリバティブ取引の清算義務化の潮流
中央清算機関(以下、CCP)による店頭(以下、OTC)デリバティブの清算義務化に至る経緯は、概ね下記の通りである。
2008年のリーマン・ショックに端を発した金融危機は、OTCデリバティブ取引についての問題点を明確にした。金融危機では、欧米を中心に急速に拡大していたクレジット・デフォルト・スワップ(以下、CDS)市場において、市場参加者がお互いの健全性に不信感を抱いたことでカウンターパーティ・リスクが高まり、CDS市場を含む多くの金融市場において流動性が急激に低下した。加えて、当局は、どの金融機関がどの程度のエクスポージャーを抱えているか正確に把握できず対応に窮する事となった。さらに、著者も経験した事だが、金融危機以前のほとんど全てのOTCデリバティブ取引が、CCPに相当する第三者機関を通しての取引ではなく、金融機関同士をカウンターパーティとした取引であったため、カウンターパーティのデフォルトに対して、担保付デリバティブ取引の差益分を、担保徴求によって清算できるのかという不信感が蔓延したことを記憶している。つまり、デフォルトしたカウンターパーティが業務執行機能を失い、担保徴求が正確に執行できず、結果として取引の差益分を失うのではといった不信感であり、著者が在籍した金融機関だけではなく、グローバルに全の金融機関の問題として顕著化した。
上記の流れを踏まえ、2009年9月のG20ピッツバーグ・サミットの宣言に、上記の様なシステミック・リスク(決済不履行の連鎖リスク等)が内在しているであろう、標準化されたOTCデリバティブ取引は、CCPを通じて決済されるべき、という内容が盛り込まれた。さらに、G20ピッツバーグ・サミットの方向性に従い、2010年10月の金融安定化理事会の「店頭デリバティブ市場改革に関る勧告」において、OTCデリバティブ取引のCCPによる清算義務化を促す勧告がなされ、主要各国でも法整備の動きが進みだした。
これらの宣言や勧告および法整備は、OTCデリバティブ取引のカウンターパーティを取引相手の金融機関からCCPにする事を図り、金融機関のカウンターパーティ・リスクの軽減や、当局による金融機関同士の取引間のエクスポージャーの把握、および清算執行の透明性や、デフォルト時の円滑な担保徴求等が期待でき、システミック・リスクの軽減に繋がると考えられる。日本でも、改正金融商品取引法(2012年11月施行)によって、システミック・リスクが内在しているであろうOTCデリバティブ取引に対して、CCPでの清算を義務付ける事で、取引におけるカウンターパーティ・リスクの低下を図っている。加えて、CCPに対して、取引情報を当局に報告する事を義務付けており、当局のエクスポージャー把握を可能としている。一方で、CCPでの清算義務を課されていない取引に関しては、金融機関に対して取引情報の報告義務を課している。
日本では当初、CCPによる清算義務化の対象商品として、「円建て金利スワップ(プレーンバニラ型で変動金利指標をLIBORとするもの)」および「iTraxxJapan(投資適格の日本企業50社のインデックスCDS)」の2商品が対象となっていた。しかし金融庁の「OTCデリバティブ市場規制にかかる検討会」を受けて、「ドル及びユーロ建ての金利スワップ(プレーンバニラ型)」や「変動金利指標をTIBORとする円建て金利スワップ」、および「シングル・ネームCDS」等もCCPによる清算義務化が図られつつある。
日本銀行発表の吉国委統計(2013年9月12日)によると、日本の2013年6月末時点のOTCデリバティブ取引の想定元本ベースでの取引残高の73.1%が金利スワップであり、また同期のクレジット・デリバティブ取引の想定元本ベースでの取引残高の99.5%がCDS取引である。これらのことを鑑みると、上記商品をCCPによる清算義務の対象とすることで、そもそもの目的であったシステミック・リスクの軽減に大きく貢献出来るものと考えられる。
上記のCCPによる清算義務化の経過を受けて、2014年3月時点での国内のCCPによる清算義務化の現状を記載しておく。日本のCCPである「日本証券クリアリング機構」は、2011年7月よりiTraxxJapan50の清算集中業務を開始しており、また2012年10年より金利スワップ(変動金利指標がLIBORのスワップ)の清算集中業務を開始している。加えて、2013年2月には変動金利指標がTIBORの金利スワップの清算集中業務も開始しており、義務化に対する清算インフラを提供している。
この様に、CCPによるOTCデリバティブ取引の清算義務化が当局の規制項目であり、かつ清算インフラが整っている以上、これらの潮流は、金融機関の業務、特に市場系業務に大きなインパクトを与えると考えられる。また、金融機関にとって、この様なデリバティブ規制は収益機会の損失を意味することも多いが、新たなビジネス・モデルの創造に繋がる可能性もあると著者は考えている。
次回は、CCPによるOTCデリバティブの清算義務化に伴う、金融機関の市場系ビジネスへのインパクトの分析し、清算義務化による金融機関の新たなビジネス・モデルの提案、および清算義務化によって発生する、SIベンダーにとっての収益機会の可能性に言及したい。